2010年9月1日水曜日

西表島 イタジキ川遡行9 イタジキ川源流域からユチン川下降




2010年9月4日
西表島 イタジキ川遡行9 イタジキ川源流域からユチン川下降
メンバー:塩月、佐藤、加藤 

朝6時半起床、7時半に出発。
前夜のラジオの天気予報では、台風9号の接近で昼頃には雨風が強くなるということだったので朝6時頃には出発したかったが寝坊した。幸い雨はまだ降っていない。この日の予定は幻の湖を出発し、イタジキ川を源流部を遡行する。そして西表島最高峰、古見岳に登頂し下山する計画だ。ちなみに古見岳は、最高峰といっても標高469.5mしかない。

幻の湖から上流は、流れもほとんどなく水も濁っていた。汚い瀞が連続してあまり気持ちのいいもではない。倒木も多くてかなりやっかいだ。茶色く濁った水で、足元が全く見えない。倒木に足をとられ、何度もズッコケタ。ヘドロのような泥も歩きにくくて難儀する。しかも歩くたびにブクブクとガスを噴出した。しだいに雨も降ってきて、ジャングルの中はますます鬱蒼とした暗い感じになった。
突然、腰のあたり大きな影が横切った。1m以上もある大ウナギだ。ゆっくりと我々の横を泳いでいき、茶色い濁りの中へ消えていった。加藤は“まるでオオサンショウウオのような太いウナギだ!”と興奮した。私はオオサンショウウオを見たことがないので、その感覚はわからないが、もしオオサンショウウオを見る機会があれば“まるで大ウナギのようだ!”と表現しようと思う。
それにしても体中が痒い。夜中にブヨに刺されたところが非常に痒い。なぜだか知らないが、水に浸かるとその部分が異常に痒くなる。水に冷やされて痒みがおさまりそうなもんだが逆効果だ。常に水に浸かっている股間あたりから太ももにかけての痒みで気が狂いそうになる。佐藤はあまりの痒さに岸に上がってやぶ漕ぎをしながら進んだが、大変なのですぐに沢筋に戻った。
地獄の黙示録のような遡行が続く。やがて流れは複雑に蛇行しながら枝分かれした。イタジキ川の源流部は、沢の流れが網の目のように複雑に絡み合っていた。地形図とGPSで、こまめに現在地を確認しながら進む。やがて流れはほとんどなくなり、尾根も近くなったので尾根筋へと上がった。佐藤が木に登って古見岳の方角を確認する。だいたいの場所がわかったので、とりあえず近場の目印として地形図に記されている標高393mのピーク(P393)を目指すことにした。そしていよいよ恐怖のやぶ漕ぎへと突入する。
やぶの中に入ってすぐ、木の枝を掴んだ右手に電気が走ったような痺れを感じた。あまりの激痛に、思わず“うげぇ~やられたー!!”と叫んでしまった。私の痛がりが大げさだったため、佐藤もビックリしてしまい“ポイズンリムーバーを使ってください!”とすっかりハブにやられたと勘違いして少し焦っている。そうこうしているうちに痺れる部分がみるみる腫れてきた。私も“こんなジャングルの中でハブにやられたら・・・”と焦りはじめたとき、加藤が小さな声でつぶやいた。“あぁ、これイラガの幼虫ですね。これはまぁ痛いですよ”。よく見ると小さい毛虫が葉っぱについていた。恥ずかしすぎて“本当にハブに噛まれたほうがよかった”とさえ思った。

西表島 イラガの幼虫

尾根筋をやぶを掻き分け進んでいくと、やがて太いツルの植物が密集して生い茂るようになる。これは南国特有の植物で“ツルアダン”というらしい。人の背丈ほどに成長したツルアダンは複雑に絡み合い我々の行く手を阻んだ。葉には棘があり、まともに掴むと強烈に痛い。しかしここまできたらとにかく進むしかない。佐藤と加藤が交代しながら、果敢にツルアダンに突っ込んで道を切り開いていった。今まで経験したことのないような強烈なやぶ漕ぎだった。藪漕ぎというより、密集したツルアダンの上をもがきながら踏み越えるといった感じだ。漕いでも漕いでも前に進まない。ときどきGPSで場所を確認してゾッとした。2時間以上やぶ漕ぎをして4~500mしか進んでいなかった。
それでもなんとかP393までたどり着いた。海が見えたが感動は全くなかった。とにかく今は進むしかない。古見岳に向かって進む。すると突然、先頭を歩いていた佐藤が“おわーっ!!”という叫び声とともに視界から消えた。“どうしたー?”と声をかけると、“あぶねぇ~、死ぬかと思った!”と返事がある。よかった、無事のようだ。佐藤が消えたあたりまで進むと、密集したツルアダンの下が切れ落ちていて10mぐらいの高さの崖になっていた。佐藤はツルアダンの隙間から落ちたらしい。幸いにも崖に生えていた太い木に抱きついて助かった。危機一髪といった感じだ。私と加藤も恐る恐る木につかまりながら崖を降りていく。下につくと加藤が疲れきった顔で“まだまだこれ続くんですかねぇ・・・”とつぶやいた。正直、私も限界にきていた。体力的にというより、精神的にマイッタ。時間は午後1時を過ぎていた。このペースでいけば確実にツルアダンの中でビバークをすることになる。しかも台風の影響で雨と風もずいぶんと強くなってきているのでかなり危険だ。“休憩して作戦を立てよう!”ということで3人で話し合った。

P393から降りてきた場所は古見岳へ続く尾根上のコルになっている。GPSで確認するとその場所の西側はユチン川上流部の枝沢につながっていた。そこで我々はユチン川を下降して下山することにした。
西表島では「雨が三粒降ったら川を渡るな」言い伝えがあるのを聞いていた。細かい枝沢が無数に存在する西表島のジャングルでは、少しの雨でも多量の水が本流に集まり増水して危険だということだ。しかし海岸線からジャングルへのアプローチは、マングローブの森に覆われているため沢筋を通るしかない。朝から雨は降り続いているのでユチン川を降りるのは少し不安だが、このまま古見岳を目指して進んでも下山路は相良川を下降するルートとなり、結局は沢筋を降りることになる。どうせ沢筋を降りるなら早いほうがいい。

コルからユチン川へ向かって降りていくと、高さ10mほどの崖になるが巻いて降りていく。いざとなればロープを出せばいいので、降りるのは気が楽だ。しばらく行くと水の流れも出てきて沢っぽくなる。やがて本流と合流し営林署の赤テープが見られるようになる。よかった。後はそんなに難しくはないだろう。ユチン川はエコツアーのコースになっているので踏み後もしっかりしている。多少、増水してもなんとかなるだろうと思った。下り始めて2時間ほどでユツン三段の滝の上に出た。天気が良ければ海岸線を一望できる絶景スポットのはずだがドシャブリの雨で何も見えない。ここは右岸側の巻き道から降りる。滝の下に出る頃には、バケツをひっくり返したようなドシャブリになる。水かさがどんどん増していくのがわかるが、素晴らしいナメが現れたので有頂天になって騒いだ。
沢に沿って登山道が続いていた。途中2度、本流を渡渉したがロープを出さずにいけた。流れは増水して茶色く濁っている。ユチン川も下流にさしかかったところで、登山道を枝沢が横切っていた。枝沢は増水して大変なことになっている。恐る恐る渡渉をしていると、佐藤が向こう岸から紅い木の実をふざけて投げつけてきた。悪ふざけにもほどがある。足でも滑らそうものなら、一気に本流まで流されて東シナ海の藻屑と化すだろう。やがてアダンの木の間を縫うように道が続く。アレっ?と思って気がつけばアスファルトの道に出ていた。
ユチン川を降り始めて3時間ほどでユチン橋に到着した。いがいにあっけない感じだった。それにしてもくたびれた。早く飲みに行きたい。さっさとこの島を離れてしまおう。ということで路線バスをヒッチハイクして港まで行き、石垣島へと向かった。




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